連載

文士刮目  伊神権太 

第5回「脱炭素化」への取り組み 出来ることから始めよう

 今回は人類にとっての最大テーマ、脱炭素化社会実現への私たちの取り組みについて。このところ、世界中で2050年の「実質ゼロ」、脱炭素社会をめざし、2030年に実現のめどをつけようとの動きが広がりつつあります。日本でも菅義偉首相が昨年10月の所信表明演説で2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする社会の実現を宣言しましたが、掛け声倒れに終わってしまうのでは何にもなりません。大切なことは市民一人ひとりが考え、声を上げ、日常生活に工夫を加え、脱炭素化社会に向けてのアクセルを踏み続けていかねば、ということです。

 では出来ることは、何か。私たちは現在、気の遠くなるような年月をかけて、ため込んできた太陽からもらったエネルギーで生活しています。そして、これらエネルギーは石炭、石油、天然ガスの3つの化石燃料から成り、これを使って日々の生活が営まれてきました。ところが、人類がこうした化石燃料を使うに従って地球そのものの体力は失われ気候変動という事態を招き、世界中至るところでの熱波に干ばつ、洪水といった自然災害の増加はじめ、温室効果ガス増加に伴う地球全体の温暖化にもつながっています。実際、私たちが化石燃料を大量に使うことにより、温室効果ガスが大気中で大幅に増加し地球全体の平均気温が上昇しています。19世紀の産業革命以降、地球の平均気温は約1度上昇。このままだと21世紀末には日本では約5度の上昇となり、30度以上の日々が3カ月以上になるとの予測があり、化石燃料を使うほど地球そのものの環境が悪化するというわけです。
 私たちは、どうしたら良いのか。身近で言えば、電気を使わない。テレビも見ない。クーラーも使わない。理想的には、今の生活を原始時代のそれに回帰させれば、太陽エネルギーを無尽蔵に使うことは防げます。でも、現実にそんなわけにはいきません。だったら、どうするか。私たち一人ひとりが日ごろの生活の中で知恵を絞り【4つのR(リフューズ・リデュース・リユース・リサイクル)】の実践を徹底させることも一手ではないでしょうか。そうすれば、温暖化への危機は避けられるかもしれません。

 それはそうと、温室効果ガスの排出量を森林や海洋などの吸収分を差し引いて実質ゼロにしようとするパリ協定(2015年12月に成立)が世界197の国と地域で合意、既に昨年から各国で本格始動しています。産業革命以降の気温上昇を2度未満、出来れば1・5度に抑制し21世紀後半には世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロに、との試みも始まりました。その一方で温室効果ガス削減には同ガスを出さないエネルギーに変更する必要があるとして、太陽光や風力、水力、地熱といった再生可能エネルギーへの取り組みも始まっています。最近ではアンモニアの石炭火力への活用も現実のものとなりつつあります。ここは、みんなで知恵を出し合って一歩ずつ進めるほかありません。 (2021/10/1)

第4回 守ろう、世界の子どもたち

 このごろ人間にとって真の豊かさとは何だろう、とつくづく思います。SDGs(エス・ディー・ジーズ)。「貧困をなくし、飢餓を撲滅して全ての人に健康と福祉を」といった国連が掲げる持続可能な17の開発目標を全てクリアすれば、それに越したことはないのですが。言うは易く行うは難しとは、このこと。では、どうすればよいか。
 簗石日(ヤン・ソギル)氏が書いた「闇の子供たち」という文庫本を最近、読みました。タイの山岳地帯などアジアの貧困社会で密売組織により10歳前後の少年少女が売り買いされ、世界中の富裕層を相手に売春までさせられている。そればかりか、少年少女の内臓までが臓器移植のために売買されているという悲惨極まる物語でした。バンコクの社会福祉センターでNGOとしても働く日本人女性を含めた人々がこうした密売組織など社会の底辺に横たわる「悪」を洗い出し子供を助け出そうとはしますが。結局は、こうした組織に加担する軍や警察などの前に何も出来ないで終わる悲しい内容でした。

 そして。これとは別に目にしたのが東京新聞(中日新聞)の8月22日付サンデー版大図解「児童労働」でした。それによると、世界で貧困のため働かざるを得ない児童数は2020年には1億6000万人に達し、実に世界の子どもの10人に1人という深刻さが示されていました。しかも急拡大するコロナ禍の影響もあって、このままだと2022年はここ20年間で初めて増加に転じ1億6890万人に及ぶというのです。皮肉なことに2021年は国連が定めた「児童労働撤廃国際年」でもあり、児童労働の撤廃が声高く叫ばれている時でもあるだけに、これはショッキングな話です。
 働く内容は、家族と野菜やバナナを売ったり、レンガの製造や自動車の修理をしたりとさまざまです。農林水産業が7割を占め続いてサービス業が2割、工業が1割で、7割が主に家族農業や家内工業など家庭内で働き、児童労働者の割合となると農村部で14%と、都市部の5%に比べ約3倍もの差が指摘されています。
 ここで国連の「子どもの権利条約第32条」を見てみましょう。そこには「児童が経済的な搾取や教育の妨げ、健康、精神的、道徳的もしくは社会的な発達に有害となる労働から保護される権利」とあります。この子どもの権利条約に照らせば、私が読んだ「闇の子供たち」に登場する少年少女は当然、保護されてしかるべきです。

 そういえば、このところ「SDGsを子どもに伝える」ことの大切さを強調する各マスコミの論調が目立ちます。気候変動など地球規模の社会問題に対して未来を担う子どもたちに問題意識を育てることが狙いのようです。東京オリンピックに続き、先月24日には「共生社会の実現」を謳い文句としたパラリンピックも始まり、開会式での難民選手団らの誇らしげな行進には私自身、胸打たれました。歩みはのろくとも一歩、一歩前に向かって進もうではありませんか。 (2021/9/2)

第3回 東京五輪と感染拡大 原発と原爆投下

 若者たちよ
 君たちは 平和がどんなに尊いか
 あなたたちは平和がどんなに幸せかを
 もっともっと知ってほしい
 そして語りついでほしい……
 地球に丸い輪がまわる
 まわれまわれまわれ 緑の地球よ
 まわれまわれまわれ まわれ
 平和の地球よ いつまでも

 以上は私がかつて乗船したピースボートの船上で開かれた「PEACE DAY 長崎原爆の日・追悼セレモニー」で若者たちがバトンリレーで原爆、学徒、悲しみ、愛、晴、願いの順で【原爆の詩】を朗読していった中の一節です。
 8月といえば1945年8月6日に広島、9日には長崎に投下された原子爆弾により多くの命が奪われました。「ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ こどもをかえせ/わたしをかえせ わたしにつながるにんげんをかえせ/にんげんの にんげんのよのあるかぎり くずれぬへいわを へいわをかえせ」(峠三吉の新編原爆詩集から)の詩でも知られる1945年の夏は、暗黒の時代の始まりでもありました。

 あれから76年たち、今は2021年8月です。7月23日にはコロナ禍のなか、一年遅れの東京オリンピックの開会式が無観客で行われ、その後各地で熱戦が繰り広げられ、一方で首都圏を中心に第5波の感染拡大が進んでいます。そればかりか、前回本欄でも触れたように私たちはこの間にも東日本大震災の発生に伴い起きた福島第一原発事故による放射能汚染に蝕まれ、復興五輪なぞとんでもないです。こうした現実を前に、かつての軍国少女を自認する知人女性は「原爆投下も原発事故も人間を不幸のどん底に突き落とし社会を破壊してしまう点では同じだ」と言い切ります。あゝ、それなのにです。
 先日の新聞報道によれば、老朽化による安全性への不安が高まっているというのに政府は原発の運転に関する「原則40年間、最長60年間」の法定機関の延長を検討している、というのです。何たること。国民の気持ちを逆なでしています。どうやら政府は「2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」を理由に原発活用への揺り戻しを図ろうともしているのです。安全を無視した暴挙がなし崩し的に許されてよいものか。答えは明白です。

 時あたかも東京五輪のさなかで日々、熱戦が繰り広げられ日本勢の活躍が目立ちます。オリンピックといえば、過去にも戦争で3度中止、火山噴火による開催地変更、選手村へのテロ襲撃などを乗りこえてきました。そのつど人類は立ち上がってきました。そして。今回はといえば、世界中にまん延したこのコロナ禍をいかに乗り越えるか、です。

 ただ立ち止まっているだけでは美しい空も、海も、山も、川も。人間の心も戻ってはきません。そんな中、広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」訴訟で政府は一審に続き原告全員に被爆者健康手帳の交付を認めた7月14日の広島高裁判決に上告断念を表明。判決が確定しました。「黒い雨」訴訟と東京五輪、コロナ。これを機に真の平和とは何か。みんなで考えてみたいものです。(2021/8/1)

第2回 汚染処理水の海洋投棄

 国連が掲げる持続可能な開発目標SDGs(エス・ディー・ジーズ)に沿った幸せな社会。これからを生きる私たちに必要なもの。それは美しい空と山、海、川に囲まれた環境に違いありません。あぁ~、それなのに、です。3・11東日本大震災の発生と同時に起きた福島第一原発事故のその後はといえば、です。除染廃棄物が詰まった黒いフレコンバッグの一方で、行き当たりばったりで進んできた使用済み核燃料プールから出る汚染処理水を貯蔵するための1000基を超えるタンク建設など。とても復興への道とはいえません。むしろ悪化の一途を辿っている現実があるのです。
 その代表が、原発事故発生に伴って今も増え続ける放射能を含んだ汚染処理水をどうするかで、これらの海洋投棄が深刻な問題となっています。日本政府は、この4月に大震災で破壊された東電福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質トリチウムなどが含まれた100万㌧以上の汚染処理水を福島県沖の太平洋に放出する計画を承認。これには地元漁協が真っ向から反対。この先、風評被害も併せて、どうなるかが心配です。

 もう何十年も昔の話です。昭和40年代に当時の田中角栄首相が日本列島改造論を提唱したことがあります。私は新聞社の松本支局のサツ回り。駆け出しで山岳遭難取材や連合赤軍による「あさま山荘事件」の取材などに飛び回ったあと、三重県志摩半島に転任。〝角さん〟の列島改造論、真っ盛りのころで志摩半島も乱開発のただ中にありました。作家山崎豊子さんが志摩観光ホテルの一室で「華麗なる一族」を執筆していたころですが、取材の道すがら美しかったリアス式海岸が次々と醜く姿を変えていく状況を目の当たりに、ふたりで海を目の前に嘆いたりもしたものでした。
 実際、真珠の海・英虞湾は乱開発と垂れ流しに伴う富栄養化が進み、ギムノディニウムという異常なプランクトンによる悪性赤潮が発生、核入れ母貝(アコヤガイ)がプカプカと浮く大量死が起き、小舟をチャーターしての連日取材が、きのうのようでもあります。放射能の汚染処理水と真珠ヘドロ堆積に伴う悪性赤潮。形こそ違いますが自然を壊すことでは同じです。当時は有吉佐和子さんが新聞の連載小説で指摘していた複合汚染が社会問題化。あの日々が思い出されて仕方ありません。

 ところで汚染水ですが、日本政府はことし4月13日、東日本大震災で破壊された東京電力福島第一原子力発電所から排出されている放射性物質を含む100万㌧以上の処理済みの汚染水を福島県沖の太平洋に放出する計画を承認しました。この水は同原発の核燃料を冷却するために使用されているもので、飲料水と同じ放射能レベルまで希釈してから放出予定で二年後から始まって完了までに数十年はかかるそうです。地元漁業団体に加え、中国や韓国などもこの計画には反対しています。本当に大丈夫なのでしょうか。人間の叡智とは何か。それが試されている気がしてならないのです。(2021/7/1)

第1回 まずSDGsから考えてみよう

 みなさん。SDGs(エス・ディー・ジーズ)って。ご存知でしょうか。国連が掲げる持続可能な17の開発目標のことで▽貧困をなくす▽飢餓をゼロに▽すべての人への健康な生活と福祉の推進──など。同じ星に生きるだれもが、より持続可能な公平で幸せな未来を切り開いていくための道筋、青写真といってよいものです。それでは、なぜこんな話を今回コラムの最初に持ってきたのかと言えば、です。私たちの【脱原発社会をめざす文学者の会】の存在と活動こそが持続可能な幸せな世界創出をめざす先頭集団であるから、なのです。

 SDGsの目標は、ほかに▽質の高い教育▽ジェンダー平等▽安全な水とトイレ▽エネルギー社会のクリーン化▽経済成長▽産業と技術革新の基盤づくり▽人や国の不平等をなくす▽安全なまちづくり▽つくる責任 つかう責任▽気候変動対策▽海の豊かさを守る▽平和と公正を全ての人に▽パートナーシップによる達成、から成ります。なんとステキな内容なのでしょう。でも、少し考えてみてください。言うは易く行いがたし、で世界の人々が、これら一つひとつの実現達成にいかに悩み、苦しんでいるかを、です。私たちは、それでも前に向かって一歩を進めねばならないのです。

 ではこれから私たちは、どんな道を歩いて行ったらよいのか。めざす脱原発社会が実現すれば、その分▼安全な環境▼豊かな海▼平和な世の中…が、近づきます。とはいえ、目の前には多くの壁が立ちはだかっています。では、どうするか。ここで私たちは歩みを止めてはなりません。原発の事故発生に伴う汚染処理水の海洋投棄問題はじめ、先が見えない廃炉の中で闘い続ける原発作業員の苦悩、令和に入り浮上した新型コロナウイルスまん延によるパンデミック(感染爆発)もあり、これからどう生きていけばよいのか。ひとつ間違ったら人類と自然の生態系を破滅させてしまう点では原発も原爆も同じです。

 最近、ある新聞に「東電福島第1原発事故により全町民の避難が続く福島県双葉町で事故後初となるコメの試験栽培が始まった」との記事を目にしました。除染した水田に県産ブランド米「天のつぶ」の苗が植えられ、農家は「当たり前のことが戻りつつあることがうれしい」と話していましたが、収穫後は放射性セシウムが国の基準値を下回るかなどを確認し全量廃棄する、とありました。この現実を私たちはどうとらえたらよいのでしょうか。

 琵琶湖を美しくしたのは粉せっけん運動を始めた主婦たちの力からでした。海にマイクロプラスチックを流さないよう。人間にかえってくるのだから。脱原発社会はむろんのこと、ちいさな、ちいさな運動の積み重ねが明るく豊かで幸せな未来を切り開くことになれば、と願いつつ。これから月一シリーズで問題点を洗い直していけたら、と思います。(2021/6/1)

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